【May「ハンアリ」】感想 【広瀬泰弘】

スペースドラマ

May『ハンアリ』
海を渡って日本にやってきた家族。その3世代にわたる歴史を背景にして、朝鮮からの白い壺を集めて、やがて、小さな個人美術館を作ることになるチョン・ジョムン。彼の中の祖国はそこにある。南北分断によって、失ったもの。それを拾い集めることで何をしようとしたのか。

子どもたちにはわからない父親の想い。ここを守り続けることの意味。彼が建てた高麗美術館を舞台にして、彼ら家族の物語が描かれる。金哲義は熱いドラマではなく、ある種の距離感をとり、この作品を作る。表面的にはいつもながらのMayなのだが、客観的にドラマ自身を、そして、この父親をみつめる視点が作品全体を貫く。

作、演出の金哲義自身がいくつもの役で登場し、芝居の中でもドラマをサイドから見つめる。日本に渡ってきた彼ら家族を監視する日本人の刑事、劇中で作られているドキュメンタリー映画のプロデューサーというポジションは実に象徴的ではないか。

これだけの大河ドラマなのに、2時間強という上映時間でまとめたのも、必要以上の感情移入を避けたからだろう。そういう冷静さがこの作品の力になった。熱くならないから、そこから見えてくるものがある。対馬から半島を見ることで父の無念を感じるのではなく、そこに秘められた想いの深さを実感させる。