【満月動物園「レクイエム」】感想【CQ ツカモトオサム】

スペースドラマ

満月動物園と鹿殺し、丸尾丸一郎氏の脚本を満月動物園が総力を結集して舞台化する夢のコラボである。
元ネタの監禁ホラー劇『山犬』は未見だが、女性率の高い満月動物園へのリメイクは、設定をかなり変える必要がある。
本作の設定は、関西のとある女子高のコーラス部員が卒業10年目の節目に催した同窓会へ集まるOGたちと顧問教師の中に、同窓生ハマダヨウコから同じ内容の手紙を受け取った者が三人居て手紙の内容通り10年前に裏山へ埋めたタイムカプセルを探しに行くことになる。
女優が演じるので、山犬も牝猫に変更されている。
大まかな構成は久しぶりに地元の高校へ赴任が決まり、この地に戻ってきた元顧問の男性教師を中心とした今現在の物語と、ハマダヨウコの生前で10年前の高校当時、コーラス部と顧問教師を眺めるヨウコと仔猫の物語の2つで、10年前と現在を交互に配置して同時進行する2プロットの配列をベースに、現在部でコーラス部が10年前の出来事を再現する回想劇が、そのままコーラス部を眺めるヨウコの10年前の場面へと繋がり、回想シーンが10年前のドラマとして現在進行する二重構造の見せ方を要所に挟んであり、展開がワンパターンにならず、場面が円滑に時間差を移行する構造は巧く構成されている。
タイムカプセルを見つけた3人が山小屋に監禁されてからはモダンホラーへと様相を転じ、ここを脱け出すためには何かを死ぬ気で思い出さねばならず、当時の記憶を必死に辿るのだ。
とは言え、ヨウコは仔猫に思いを託し死んでしまったので、手紙を出したり監禁したりする実行犯が必要で、当地の観光案内課の職員を勤めるヨウコの双子の姉が登場する。
この姉妹はそれぞれ別の家庭に養子縁組されてるのだが、ストーリーが純愛テーマにシフトし始めると、謎解きの要素はお座なりになり始め、双子の設定が辻褄合わせの都合の産物になってしまう。
姉として出番がもう少しあっても良かったように思う。
出口のない山小屋に監禁されるのも、かなり強引な展開で、どのように3人を捕らえ、眠らせたかは描かれず、悲鳴の主は誰なのか、出口の無い山小屋へ如何にして閉じ込めたのか、居酒屋に残して来たOG3人のその後は、等々、未回収な謎は多少あっても良しとするが、入念に仕込まれた監禁劇として見せるなら、納得できるロジックが欲しい。
ホラーの心理劇なら、監禁された3人の心理描写を深くしっかりと描きたい。
そもそも10年前のコーラス大会の日、部長の石橋に押され道路に飛び出した雲雀を助けたのが服部先生なら、本来はイジメられてた雲雀が命の恩人である服部に好意を寄せるキッカケの場面で、公然と愛を告白する石橋から反感を買わぬよう、秘かに服部に思いを募らせねばならない。
我儘で誰からも愛されたくて服部の気を引きたい石橋、石橋を出し抜いて服部を射止めようとする雲雀、死んでなお服部に思いを募らせ自分を思い出して欲しいヨウコ、出口のない小さな山小屋の中で一人の教師に向けられた三者三様の愛憎と様々な攻防、駆引きの末に行着く先を見たいのだ。
元来、満月動物園はオープニングで大仕掛けをする作品が多く、スプラッター張りに喉を掻き切って血飛沫を飛ばしたり、目玉をくり貫いたて鮮血にまみれたり、腕を切り落としてのたうち暴れたりする残虐シーンを美しく見せるのは得意中の得意で、交通事故があった刹那に片腕を咥えた猫と目が合うシーンや、終盤の人肉を食べる場面等、醜くも美しく描いてこそ満月動物園なのである。
全てを思い出した服部が、教師の立場を忘れて自分をさらけ出す姿が見たいのだ。
監禁された異常な状況の中で、次第に精神を病んで狂って行く様子は良く描けている。
テキサスチェーンソーの如く、コックさんがチェーンソーを振り回すのも悪くない。
外光を使う演出はそれほど効果を成さない。
空腹や監禁された状況への焦燥感は些か不足に感じる。
何よりも本作には、病的なまで一途に恋い焦がれる狂信的な愛が不可欠なのではないか
今一度、何故この3人が集められ、監禁されたのかを考えたい。
必然性あってのコトに違いないのだ。
死ぬ気で思い出すべきことは一体何だったか?
それはヨウコが本当に伝えたかったコトで、自分の命より大切なコトだ。
それが観客にまで明瞭に伝わらなければ、ヨウコの魂が浮かばれない。