【匿名劇壇 レモンキャンディ】ブラックペッパーを噛むように【無名劇団 中條岳青】

スペースドラマ

匿名劇壇、観るのは実は初めてで。過去に舞台でご一緒したニシノくんがいることくらいしか知らない。あと名前がウチとやや被りで、迷惑してんだろうな、でもお互いさまだよね、くらいの印象でした、すみません。以下、まとまりませんが、感想です。

観終わって、ああ、悪い冗談だな、と思った。設定から展開から交わされる会話から、徹底して、悪い冗談。作風はジョーク、と劇団紹介にあるけど、そういう意味ではまさにその通りだな、と。

何だか分からん乗り物が、ひたすら異常な高さから落下してて、死の結末は最初から暗示されている。幕開けと同時にパニックはあっけなく過ぎ去って、終始普段着の会話が繰り広げられる。唐揚げにレモンがどうとか、誰が本命の男なの、とか。

人物たちはみな、この状況下のせいか、それとも元々の性質からか、それぞれどこかネジが飛んでて、発作的かつ必然的に事件は起こる。しかし、それらもすべて、解決も回収もされることなく時間が過ぎていく。まるで、ただ見てることしかできない悪夢みたい。

生とか死とか、宗教とか社会とか、大きくて深刻な問題がたくさん出てくるのに、一切がそれぞれの極私的な問題の前にどうでもよくなってる。というか、描かれている人物の内面の問題も類型的で、あまりに無個性だ。これってわざとだな、と思う。

フィクション症候群とか、アイドルのしゃかいもんだいの歌とか、やり方の分からないボードゲームとか、何か面白かった。何かを揶揄してるわけでも、社会を風刺しようとしてるわけでもない、ただ単にスマートに悪ふざけしたいんですよ、っていう雰囲気で。

ウチでこんな劇を書いたら、くそ真面目なウチの劇団員たちはこう言うに決まってる。いわく、やれ必然性はどうしたとか、やれテーマが絞りきれてないとか、やれ作品の持つメッセージは何だ、とか。でもきっと、匿名劇壇にはそういうの、要らないと思う。

どう生きるか、どんな人生や選択が正解か、そんなことは結局どうでもいいんだよね。落下と重力の関係とか、現実と整合性取れてない状況についてもそのまま台詞で説明されてるけど、あれも極論なくていいよな、だって全部、悪い冗談だもの。

悪い冗談を徹底的にやる。演劇って、表現って、きっともともとそういうものなんだよな、基本的なスタンスとして。表現する側にとっては、スタンスとかどうでもいいんだけど。悪い冗談はさておき、って棚に上げず、純粋に、真っ直ぐに、悪い冗談と向き合う。それこそが、匿名劇壇なのかもしれない。

交通整理の行き届いた台詞のやりとりや、大胆かつ明解なビジュアルで表現されてるから、小賢しい観客は、暗喩されている何かを探してああだこうだ議論し、素直な観客は、不思議な緊張感の中でハラハラしたりしてしまう。それすら、脚本と演出の手の内で。

劇中何度も、これ、ブラックジョークだけど、楽しめる?って問われてる感じがした。気分よくレモンキャンディ舐めてたのに、不意にガリッて噛んだら舌がしびれて、何これブラックペッパーやん、みたいな後味が残る、良質だけど異質な舞台。こんな舞台を作る連中が、ウチと肩並べてスペドラに出てるって?それこそ、悪い冗談だよ、まったく。