【匿名劇壇『レモンキャンディ』】あれは嘘だ。【戒田竜治・満月動物園】

スペースドラマ

こんにちは。満月動物園で演出をしております、戒田竜治と申します。

このスペドラの劇評・感想ブログという企画はなかなかに過酷なところがあって、自分の作品の製作中に、ほかの作品を言語化するというのは普段出来ない経験です。時間を置くと書くのがイヤになってしまうので、拝見して、帰り道に考えて、帰宅したら他のことはなにもせずに書く、ということにしています。ですので、若干、書き殴り気味ですがご容赦を。
匿名劇壇さんの『レモンキャンディ』を拝見しての感想です。

日常と非日常の境界線を何度も何度も引き直す。それにとどまらず、様々な境界線を「それは本当に境界線なの?」と小刻みに揺さぶり続けられる作品でした。

いったん引いて見せた境界線も「境界線だと言ったが、あれは嘘だ」とヒョイヒョイと引き直す。でもそこに軽薄さは感じない。むしろ、世の中のどんな小さく細い境界線も全部問い尽くしてやるぜというような覇気をずいぶん照れ隠しされているように感じた。

俳優さんも自分(の役が)が引いた境界線を引き直されたりかき消されたりしながら、ほとんど他の登場人物との間に理解も共感も合意も反発も形成されない中で個性を演じていく演技は匿名劇壇さんが独特に開発してきたものだと思う。

たぶんだけど、あの演技がなければ「ヒョイヒョイ」とはいかないのだろうと思う。ここに「ヒョイヒョイ」がなければと想像するだけでも恐ろしい。コメディ的に解釈されても、哲学的に解釈されても苦しいんじゃないかな。匿名劇壇的でなければいけないのだと思う。

日常と非日常を個々人がマイペースに、とても小刻みに行ったり来たりする中で「意外な一面」もサラリと描かれる。それもまた境界線を揺さぶられる。「○○だと言ったが、あれは嘘だ」という小嘘を積み重ねながら、主観と客観をマーブル状にかき混ぜた混沌の中に確実に巻き込まれている。

「あいつにはこう見えているが、こいつにはこう見えている」というのが、均一化せずにマーブル状にかき混ぜられた中に、いつの間にか巻き込まれてしまっていて、それはとても心地よかった。

いつか「演劇だと言ったが、あれは嘘だ」という公演(?)に行き着くんじゃないかという、危惧とも期待とも、境界線の曖昧な感想を持ちました。